2014.10.27
Renon「鴨居プロジェクト」
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞を受賞した作品です。
住まいに新ジャンルを造る
Renonが提案する「磨き売り」プロジェクトの第3弾です。
今回のお部屋は鴨居駅前住宅という、築44年・壁式構造の団地の1階です。磨き売りの最大のポイントは、「現状では売りづらい状態のお部屋でも、持っている特長や潜在力をいかに引き出して、買い取りのたたき売り価格より高く売って差し上げるか」です。このお部屋の潜在力は何か?を考えるためにまず、良い所・悪い所を簡単に整理してみます。
悪い所
1.壁式工法で取れない壁が多い
2.お部屋の中に大きな梁が出ている
3.築が古い
4.マンションの1階
良い所
1.駅から徒歩5分
2.耐震基準適合証明書は取ることができる
3.築が古い
4.マンションの1階
5.管理はしっかりしている
3と4が良い所でもあり同時に悪い所でもあります。人は古いよりは新しいものを好むのが普通です。また1階ですと眺望はないですし蚊なども出やすいです。
その一方で、築45年ですのでこの先築50年60年になってもお部屋そのものの価格はもうほとんど変わらないでしょう。駅からは近いというのもこの「将来的な価値が変わりにくい」という長所を補完しています。
また、1階は下に住戸がありませんので自分たちが出す音をあまり気にする必要がありません。耐震基準適合証明書が取れる建物であるというのと管理がしっかりしているというのも大きな利点です。このマンションが10年後、20年後に存続しているであろう未来が見えるからです。
ここまででこのお部屋に住まう人の姿が見えてきました。
・子育て奮闘中のご家族
・子どもにはノビノビとさせてあげたい
・予算は抑えたい
ところで、既存の住まいのテイストには例えば「ナチュラル」や「モダン」と言ったものがあります。
『家全体のテイストはナチュラルにして、子ども室は水色の壁紙で可愛くする』といったような形がオーソドックスです。
これは大人中心の家造りといえます。ナチュラルに限らず、既存のテイストはその全てが大人目線であることに気づきます。
そこで、子ども中心の子ども目線の住まいがあってもいいのではないか?と考えました。家全体が子どもにとってワクワクする空間になっているような。子どもが元気にイキイキとしている姿を大人が眺めて幸せを感じられるような。そんな住まいです。
これは既存のどのテイストでもありません。全く新しい住まい造りになるはずです。
「メルヘン」。これが今回の磨き売りを始めるあたり、代表の山田から出されたテーマ=お題です。メルヘンと聞いて想像するものは人によって様々だと思いますが、私たちは「子どものための空間」を今回のメルヘンとして設計を進めていくことに決定しました。
設計コンセプト
・ファンシーを感じるプラン、色使い
・子どもが想像力を膨らませる家
・子育てに物語を思い描く家
設計上のハードル
今回のお部屋は建物を壁で支える壁式構造の団地のため、「取れない壁=構造壁」があります。
構造壁を取ってしまうのは人間で言うと骨を取ってしまうようなものです。絶対にできません。幸い、管理組合がしっかりとしていたので「構造図」が手に入りました。これをもとにまずは取れる壁と取れない壁を確認します。つまり、「この部屋のスッピン状態」の姿を把握することからスタートです。綺麗なメイクはスッピンにしないことには始まらないですよね!?
すると、既存の間取りでは浴室・トイレ・洗濯機・キッチンといった水廻りが集中している場所の壁は取ることができることがわかりました。赤色の壁が壊せる壁です。
そしてもう一つ、既存の間取りのリビングと洋室の間の収納。ここも一部壊せない部分もありますがつなげることは可能です。逆に言うとこれら以外は全て「取ることができない壁」ということになります。
この状態を最大限活かしてまずは子どもにとって居心地の良いような、住まい全体の「空気と光の一体感」を出していきたいと思います。壁を取るだけが空間のつながりを出す方法じゃないんです。
まず、リビングからキッチンを見てみましょう。
beforeのこの配置、細かく見てみるとリビングにいる人はキッチンへの扉に背を向けて座っていることでしょう。
キッチンに立っている人はリビングにいる人と直角の目線です。
いずれにしても目と耳はつながりようもなく、扉を閉めれば気配すら絶つことができます。
同じ角度の完成予想パースを見てみてください。
キッチンに立っている人はこちらを向いており、目線や会話のつながりは容易です。
カウンターを伸ばすことで壁がありながら、機能的にも視覚的にもよりつながりを持てるようにしました。
こちらはリビングの完成予想パースです。
メルヘンな仕上がりが見えてきました♪
建物とお部屋、「ハード面」の確認
リフォーム・リノベーションが語られるとき、間取りやデザインや使い勝手にばかり目が行きがちです。しかし大切なのはそれら「ソフト面」だけではありません。
Afterをご覧いただく前に、「ハード面」の大切さについて、2点ほど触れておきたいと思います。
1.給排水管の交換
今回古い配管(給水、給湯、排水、ガス管)は全て撤去しました。写真は解体工事中に撮影した給水管です。
「配管の中はどうなってるかな?」と手に取ると大量の錆が!!
長く住まわれていなかったということもありますが、やはり鉄管は錆びます。当たり前ですが、見えないところで劣化は進んでいますね。
新規配管はポリブデン管を使います。ポリブテンとはカーペットなどで使われるポリプロピレンと同じポリオレフィン系の樹脂です。
ポリブデン管の特徴は有害物質の溶出や、赤サビ・青サビの発生などによる水質汚濁がありません。水がビニルっぽい味がする、なんてことはありません。今では鉄管に変わって設備配管材の主流となっています。
欠点は可燃物であるということ。
外壁は火災時に火から守る区画壁になるので、ここを貫通させるものは不燃物でなくてはなりません。昔は鉄管だったので問題なかったのですが、樹脂管はそのまま貫通させてしまっては問題ありです。配管が燃えて穴が開いてしまうと火の通り道となってしまうからです。
そこで登場、耐火プラグ!!
これを配管に巻いておきます。耐火プラグは燃えると5~40倍に膨張し穴を塞いでくれます。弱点克服です。
2.耐震基準適合証明書
建物全体の話です。安心とお得に関わってきますので、無視できない部分です。
旧耐震と新耐震という言葉をご存知でしょうか。
何となくのイメージですと
「旧耐震=弱い、怖い、やめた方がいい」
「新耐震=強い、安心、こっちの方がいい」
と言う感じでしょうか。
正確には、1981年6月を境にそれ以前に建築確認を取得して建てられたものを「旧耐震」、それ以降に建築確認を取得して建てられたものを「新耐震」と呼んでいます。1981年6月に建築基準法に大きな改正があり、その前後で区別をしているのが旧耐震・新耐震です。
これと似たような建物の古い新しいにまつわる話で、「住宅ローン減税を受けるための建物の要件」に「マンションなどの耐火建築物の建物の場合には、その取得の日以前25年以内に建築されたものであること。」というものがあります。
この要件に照らすと、
2014年 - 25年 = 1989年
ですので、例えば1985年(昭和60年)のマンションなどは住宅ローン減税の対象から外れることになってしまいます。1985年ということは新耐震のはずなのに、です。現状では、新耐震であれば住宅ローン減税を受けることができる可能性はかなり高いと言えますが、100%ではないということですね。
ただ、この要件には続きがあります。
「(築25年以内に)該当しない建物の場合には、一定の耐震基準に適合するもの」であれば住宅ローン減税の対象となりえるとなっているのです。この一定の耐震基準に適合するという証明書が「耐震基準適合証明書」なのです。
「耐震基準適合証明書」の交付を受けられた場合のメリットですが、
・心理的安心感を得られる
・住宅ローン減税を受けることができる
・所有権移転登記をするときにかかる登録免許税が安くなる
・不動産取得税が安くなる
・不動産取得資金の贈与税が一定金額について非課税になる
・地震保険が安くなる
など多岐に渡り、「旧耐震なんだよね・・・」というネガティブなものが払拭されるのです。今回の鴨居駅前住宅ではこの耐震基準適合証明書を取得できることがわかり、販売促進上の大きなポイントにもなりました。
ソフト面が「快適」につながるものだとすると、ハード面は「安心」につながるものです。満足としあわせにはどちらも欠くことができないはずです。
after リフォーム完成 細部について
↓
まずは『キッチン』です
カウンターと壁には名古屋モザイクのアートモザイク施釉で仕上げました。
明るいけれども深みのある色がとても綺麗です。この色から子どもたちは何をイメージするでしょうか?
シンクはアーミックのオリジナルホーローシンクです。
白いボテッとした縁が可愛いですよね。
水栓はイタリアのラトーレ社製混合水栓。インデックスサインは現在ではコスト削減でプラスティックがほとんどなのですが、ラトーレはクラシックな陶器製で作り続けています
素敵です♪
青い壁の部屋は『船』と呼んでいます。
こんなことを想像しました。
『エメラルドグリーンの海(カーペット)、
砂浜(フローリング)あげられた船は出向の時をまっている
虹がかかった、晴天だ!
碇を上げろー!帆を張れー!さあ、冒険の旅へ出発!!』
子どもはこれを見て『船』と思うでしょうか?
『朝顔だ!』という子もいれば、『ドラえもんだ!』なんて思う子もいるかもしれません。
何を思ってもイイのです。白い壁からは生まれない想像、妄想、発想が子どもの豊かな感情を育てます!
中はロフトになっていて、上は船長の部屋。下の船底には積荷を集める部屋となっています♪
『そこから生まれる想像』を楽しんでいます♪
洗面脱衣室での私の想像は『小さな湖で羽を休める白鳥』。
水栓はスワン型のサンワカンパニー、フォルテです。長い首を垂らした形が特徴。
洗面器はWHITE STONE製のノーマルマット。
陶器でありながらピカピカしてなく、マットな仕上がりが綺麗ですね。白鳥の体に見えてきませんか?
立ち上り部分にはキッチンの壁に合わせた名古屋モザイクのアートモザイク施釉を貼りました。
湖の水をポイントに爽やかでカワイイ洗面室となりました。子どもは何を想像するかな?
キッチンが砂浜に佇む小屋、その前が砂浜、そしてエメラルドグリーンの海というイメージです。カーペットとフローリングの境目を意図的にリビング側に寄せています。こうすることで、取れない壁があってもお部屋とお部屋のつながりや連続性を感じられる効果を狙っています。
また大きく張り出した梁は虹をイメージしたクロスで仕上げました。こうして目立たせて意味を持たせることでただ単に「邪魔な物」ではなく、却って空間との一体感が出てきました。
販売~成約~未来
販売開始時のオープンルームでは計測不能なほどのお客様にご来場いただきました。磨き売りプロジェクトの大きな目的は冒頭の通り、「高く売ること」です。しかしそれだけではありません。
「こんなこともできる」「こんなことしてみてもいいんだ」というリフォーム・リノベーションの可能性を感じて欲しいと思っています。そして、たった一人でもいいから「深く」響く方に心から喜んでお住まいいただきたい、磨き売りプロジェクトの時はいつもそう考えています。
結果的に、今回ご購入いただいたお客様は、私たちが想い描いていた通りの方でした。ご夫婦と小さなお子様がいらっしゃるご家族で、「まさにこんな家が欲しかった」という方と出会うことができたのです。
いわゆる「リフォーム済み物件」と何が違うのでしょうか?リフォーム済み物件は誰が住んでも良いように作られています。私たちの磨き売りは「こんな人がこんな表情で住むはず=こんなコトが起こるはず」と常に考えています。私たちが造りたいのはモノではなくコトなのです。だから、造り手と買い手が出会った時の感動が深いのは当然なのかもしれません。
物件価格は1570万円です。お客様が子育てを終える10年後、15年後、住宅ローンはほとんど返し終わっていることでしょう。深い満足に包まれて生活をして、子育てを終えローンを返し終えた頃に、「またちょっとリフォームしちゃおうか?」とか「どこか違う所に住み替えてみようか?」というどちらの選択もできるのです。家に縛られず家を愉しむことは、考え方とやり方次第でどんな人でも可能だと思います。