2013.12.22

NZの中古住宅売買から学ぶこと

皆さんこんにちは。リノベーション【も】得意な中古住宅専門の不動産会社、株式会社しあわせな家の山田篤です。

毎年恒例の年末コラムです。

【過去の年末コラム】
2009年「不動産営業のあるべき姿」
2010年「私の役割」
2011年「職人の肌感覚」
2012年「結論は人間力と3.3倍」

今年のタイトルは「NZの中古住宅売買から学ぶこと」
12月5日~12月10日、夏休み前の最も不動産が動く時期にニュージーランド(オークランド)の中古住宅売買を視察してきました。先進国の中では割とのんびりしたイメージがあるNZ。その中古住宅売買は、どんな仕組みなのか?学ぶことはあるのか?整理をしてみます。
NZの中古住宅売買から学ぶこと

ニュージーランドはどんな国?

日本と比較すると、
【人口】日本:約1億2000万人、NZ:約450万人
【人口密度】日本:337人/㎢、NZ:16人/㎢
ということで、個人住宅は最低400㎡(約120坪)の敷地に平屋の建物が基本でした。

国民性は、
良い意味でも悪い意味でも仕事とプライベートをはっきり分ける。
あまり貯金をしない。
という話が聞こえてきました。

最近、NZの住宅ローンは物件価格の85%までしか借りられなくなったようで、こんな仕組みがあるそうです↓
物件を気に入った購入希望者に頭金がない。(貯金をしない国民性)そこで、まずは投資家がその物件を買い、そこに購入希望者が賃貸で入る。その購入希望者は仮に家賃が10万円だとすると毎月15万円を支払う。その余剰分の毎月5万円を投資家が蓄えておき、数年後にそれを頭金として購入希望者が住宅ローンを組んで購入する。
「リースオプション」と呼ばれるこの仕組み。最初に聞いた時、なかなか理解ができませんでした。ここまで貯金をしないとは・・・。

NZ中古住宅売買の基本

本題に入りますが、まずはじめに知っておきたいことは2つです。
1.日本で言う「買取再販業者」つまり不動産を購入して転売するというスタイルの場合、NZではライセンスはいらないが、不動産仲介業を行うエージェントはライセンスが必要である。
2.不動産仲介業者=エージェントは「売り手」側にしか居ない。つまりセラーズエージェントのみで、「買い手」側の仲介業者バイヤーズエージェントは存在しない。

1については、自分で買ったり売ったりするのは自己責任だが、他人の物を売ることには高い倫理観が必要だからライセンスが必要という意味でしょう。
2については、売り手のメリットは100%自分の為に動いてもらえること。利益に反する行動をした場合、厳しい罰則があるようです。買い手のメリットは仲介手数料がかからないので購入経費を抑えられること。ただ、購入の意思決定に不安がある人にとってエージェントが居ないのは・・・。ここは日本の中古住宅売買の常識をいったん忘れて、NZの売買の仕組みを知ってから判断すべきなので、これから掘り下げていきます。

NZ中古住宅購入フロー

1.物件情報収集
まずは以下の媒体等で情報収集をします。

インターネット

「Trade me」

紙媒体
「Property Press」

NZの中古住宅売買から学ぶこと

NZの中古住宅売買から学ぶこと

100ページ以上も、物件情報、オープンハウス情報が並びます。NZでは7年に1回住み替えをするというデータがあるそうです。ライフスタイルの変化に合わせて引越しをするんですね。不動産価格が右肩上がりであり、かつ築年数が経っても建物の評価が下がりにくいことも要因でしょう。車で住宅地を走ると、いたる所にオープンハウスの看板が立っていました。

物件情報の特徴は、そのほとんどに「間取り」が掲載されていないこと。そのかわりこんな表示があります。

NZの中古住宅売買から学ぶこと
この豪邸は、ベッドルーム×5、リビング×2、シャワー×3、勉強部屋×1、書斎×1、屋外車庫2台分、屋内車庫2台分、そしてプールあり。

NZではベッドルームの数が最も重視されます。この数で価格に大きな差が出るそうです。その根拠として、賃貸に出す場合、2ベットルームと3ベットルームでは週100ドル(オークランド郊外)くらい家賃に差が出るからです。建物が何㎡あるかではなく、ベットルームがいくつあるかが基準になります。
ちなみにNZの家賃は週払いだそうです。これまで考えたこともありませんでしたが、月単位の場合は28日の月も31日の月も同じ家賃ですが、週単位の場合はそういうことが無くなります。投資という点でみると非常に合理的です。なお、ベットルームの定義は「収納」が付いていることだそうです。「何帖以上だと」みたいなルールは無いようです。

次に価格について、その物件情報の多くには価格が表示されていません。オークランドでは家が足りていないことから「オークション」が多いためです。目安となる価格も出ていませんので、日本では考えられません。とにもかくにも「まずはオープンハウスに来て下さい」ということですね。

2.オープンハウスへ

開催の1ヶ月くらい前から看板が立ちます。
NZの中古住宅売買から学ぶこと

NZの中古住宅売買から学ぶこと

驚きなのはその開催時間。土日の13:00~13:30!たった30分間です。
これならエージェントは1日数件のオープンハウスができます。確かに1日中現場で待っているのはキツイですからね。。。これは日本でもありでしょうか???

予約は必要ありません。飛び込みでオープンハウスを訪れます。
まず日本人が戸惑うのは「靴」です。もちろん玄関に土間部分はありませんので、玄関ドアの外側でぬぐことにしました。オープンハウスの中に居たエージェントをみると、きちんと靴を履いています(笑)床は美しいフローリング!!!
玄関を入ってすぐの所にipadが置いてあり、そこに住所、氏名、メールアドレスをインプットします。さすがに私の情報を入れるのもアレなので、一緒に行ってくれた友人にお願いしました。ちなみにこの友人はNZの永住権を持っており、家を探しています。
 
NZの中古住宅売買から学ぶこと

NZの中古住宅売買から学ぶこと

NZの中古住宅売買から学ぶこと

NZの中古住宅売買から学ぶこと

この建物は築23年。収納に洋服がたくさん入っていたので恐らく居住中です。にもかかわらずこの綺麗さです。写真をよくみると、小物が置いてあります。これは「スタイリング」と言って弊社でも行っていますが、エージェントが持ってきた小物で部屋が飾られています。売り手とエージェントが一緒になって、きちんと準備をして今日の日を迎えていることが伺えます。ここはしっかり見習わなければ!

3件のオープンルームをみましたが、3件ともA3を三つ折りにした資料を渡されました。

NZの中古住宅売買から学ぶこと

NZの中古住宅売買から学ぶこと
中を開いてもほとんどが写真です。恐らくプロが撮影しているであろう美しい写真ばかりです。ほんの少しのコメントには「メイン道路から少し入っていて閑静」「太陽サンサン」「評判の良い小学区」「子育てするには最高」みたいな事が書かれています。これは日本と変わりませんね。

裏面をみると物件概要が。

NZの中古住宅売買から学ぶこと

内覧の時点でどこまでの情報公開をしているのか?非常に楽しみに読み始めると・・・

物件概要

・日本で言う地番のようなもの
・敷地面積 1012㎡を2分の1ずつシェア
・評価額 600,000ドル
・固定資産税 2,150.75ドル
・置いていく物 ストーブや食器洗、防犯用警報機 等々
・築年数 23年
・延床面積 180sqm

これだけです。この物件概要と同じくらいのスペースを使って「参照」として以下の文章が。

Reference:We would like to recommend Lynne Lagan as the first person to contact when selling or buying a property-She does actually listen to what you want, and then sets about making it happen. Her knowledge and uederstanding of both the market and individual requirements makes her an ideal person to trust with advice on what is probably your biggest purchase commitment. John & Angela Antony

google翻訳はコチラから → http://translate.google.co.jp/?hl=ja

何とビックリ!物件概要と思った裏面の半分は、エージェントの宣伝でした!!!下の方に顔写真もありますし、これは衝撃的です。

2件目の資料の中には「ニュースレター」が挟まっていました。

NZの中古住宅売買から学ぶこと

11月号の中身は、上の方に10月のオークランドの住宅市場について書かれています。最後の方、一ヶ所蛍光ペンが引かれていたので期待して読んでみると「紹介成約は500ドルプレゼント!」。ここに引くか・・・。
下の方には「夏場の住宅メンテナンス トップ5」が。
5位:バーベキューのガスと木炭の準備を忘れるな!
4位:芝生の手入れ
3位:車庫の床の手入れ
2位:屋根の手入れ
1位:ウッドデッキの手入れ

う~ん。微妙なランキングです。。。

話は内覧の時に戻ります。
数組の内覧者がいたので、エージェントはこちらからの質問に答えるだけで、積極的な営業はありませんでした。ただ内覧中も帰る時も、何回も何回も「何でも質問してね」的なことを言われたので「購入する時はきちんと対応しますよ」という空気は感じました。
しかし、このA3の資料と内覧するだけで購入の決断をしなければいけないのか?建物面積180㎡もなんかドンブリ勘定に感じるし・・・、権利関係などどこにも書いてない・・・。この程度では日本よりも情報が少ない。。。

3.Eメールで
翌日、友人のところにEメールが届きました。3件内覧した内の2件からです。届かなかったもう1件は2ベットルームの物件で、友人はエージェントに「私は3ベットルームを探している」と言っていたので、お客と思われなかったようです。

送られてきた物

A物件
・日本で言う「謄本(登記事項証明書)」のようなもの
・賃貸に出した場合の見込み家賃
・LIM(land information memorandum)
・エージェントについてガイドブック
・オークション開催について

B物件
・日本で言う「謄本(登記事項証明書)」のようなもの
・賃貸に出した場合の見込み家賃
・LIM(land information memorandum)
・オークション開催について

エージェントについてのガイドブック以外はほぼ同じ内容の物が送られてきたのでこれが一般的なのでしょう。かなりのボリュームです。良かった~!!!期待を裏切られるかと思いましたが、これなら!!!資料毎に内容を説明します。

・日本で言う「謄本(登記事項証明書)」のようなもの
権利関係が記されています。たまたま2件とも日本で言う「専用通路」物件でした。NZでは所有権と借地権だけでなく「crosslease」という所有形態があります。専用通路物件と道路側物件が分筆されておらず、ひとつの土地の上に2件の家が建っています。その場合、土地はお互い2分の1ずつシェアする。建物は2分の1は所有し、残りの2分の1は999年間のリースになる。その所有者はお隣さん。何とも理解しがたい形態です。。。
とは言え、権利関係がわかったのでスッキリしました。

・賃貸に出した場合の見込み家賃
A物件は約150㎡の3ベットルーム、B物件は約180㎡の3ベットルーム。この2物件は歩いて2分程の距離なので立地はほぼ同じです。
A=520ドル~560ドル(週家賃)
B=580ドル~615ドル(週家賃)

B物件は外壁がレンガなので少し評価が高いようです。また、駐車場はA物件2台、B物件4台という点も違います。
いずれにしても、この情報は貴重です。誰のかよくわかりませんが「サイン」がしてあるので信憑性も高いのでしょう。収益還元法で物件価格を考える場合に有効です。

・LIM(land information memorandum)
これは市役所が提供している情報のようで、素晴らしい!の一言です。
土地の履歴やライフライン、日本のハザードマップのような内容や建物の建築確認について等々、きちんとした情報公開がされています。
中でも、評価額と税金がきちんと明記されています。

A=評価額580,000ドル(土地280,000ドル、建物300,000ドル)、固定資産税2,137ドル
B=評価額600,000ドル(土地280,000ドル、建物320,000ドル)、固定資産税2,150ドル

まず、NZでは評価額≒時価のようです。これは素晴らしい。。。
日本では土地は「一物四価」と言われており、1.時価、2.公示地価、3.相続税評価額、4.固定資産税評価額とあり、1.時価は2.公示地価より上(都心の場合)、3.相続税評価額は2.公示地価の80%、4.固定資産税評価額は2.公示地価の70%くらいという感じで、もう消費者からするとわけがわかりません。
その点NZはシンプルで、評価額が購入価格を決めるベンチマークになります。ちなみに、NZでは相続税や譲渡税がありません。投資家にはたまらない国ですね。

なお建物評価額を比較すると、A物件の建物は築23年150㎡なので、300,000ドル÷150㎡=2,000ドル/㎡。
B物件は築7年180㎡なので、320,000ドル÷180㎡=1,777ドル/㎡。
おそらく「㎡単価」を出すことに何の意味もないのでしょうが、B物件の方が築浅なのに㎡単価は安いです。築年数や㎡数は、全く重視されていない証でしょう。さらに、3件目の建物は築53年の2ベットルーム100㎡でしたが、湖がみえるロケーションであったこともあり、評価額、税金ともに上記2物件とほぼ同じでした。築年数など全く関係無しですね!

・エージェントについてガイドブック
これは売却の依頼を受けた際に、売り手に渡している書類だと思います。あえて買い手にも渡すのは「エージェントは100%売り手の為にこんな仕事をします」ということを知ってもらうためでしょうか。

・オークション開催について
これは読む気にならないくらいに長々と、オークション開催について詳細が記されています。ルールが明確に決まっているということでしょう。
オークション開催日は、
A=12月18日(水)12:00~、B=12月12日(火)10:00~
仕事の人は???
内覧したのが12月8日なので、1週間前後でこの資料一式を読んで入札するかどうかを決断することになります。まあ、日本の内覧当日に「どうしますか?」よりはずっと良心的です。

 

4.オークション以降

ここから先のことは経験できませんでしたので、よくわかりません。ただ、わかったことを書くと、
・エージェントの仕事はあくまでセールスなので契約締結まで。仲介手数料は物件価格の2%。(一定額を超えると4%)前述の通り、売り手からのみいただく。
・契約や登記、入金関係は弁護士が行う。弁護士費用は10万円前後。
・住宅ローンは専門の人がいる。ちなみにTVCMが流れていましたが1年固定で4.95%!史上最低金利だそうです。
・不動産取得税や登記費用などはかからない。購入諸費用は弁護士費用と固定資産税だけのようです。

なお、ホームインスペクションについて確認したところ、契約の条項に入れることができ、概ね70%くらいは実施されているようです。ホームインスペクションの結果をもって、価格交渉などができるように契約書に入れるそうです。実際の条文を読むことはできませんでしたので、どなたかお持ちの方がいたら教えてください。

 

まとめ

NZでは家を探す時「ロケーション、ロケーション、ロケーション」と言われているそうです。日本風に言うと「一にロケーション、二にロケーション、三四がなくて、五にロケーション」。そんな中、日本との最大の違いである「買い手側にエージェントが居ない」についてどう考えるか?

上述の通り情報公開について、隔たりなく「横に広く」、「縦に深く」公開しています。どういう事かと言うと、「横」はこの物件が売りに出ているということを、様々な媒体を使って広く公開しているということです。日本と違って買い手から仲介手数料がもらえないので、売り情報を自分だけの為に隠す必要もないのです。世界の常識でしょうが、日本では常識ではありません。早く変えねば!

「縦」はこの物件の詳細について、きちんと深く公開しているということです。日本ではこういった情報は契約を決めてから公開されることが多いですが、購入の意思決定の段階で公開される方が良いに決まっています。弊社では役所調査資料をまとめてお渡しをしたり、ホームインスペクションを契約前に行ったりと、深い情報公開を実施していますが、LIMのように公が発行するきちんとした書類があると非常に助かるでしょう。

エージェントには何でも質問できる環境にあるようですし、自分の意思決定に不安がある買い手は、エージェントではなくアドバイザーのような人に頼むことはできるようです。こうみてくると、NZで買い手側にエージェントが居ないことは全く問題ないでしょう。むしろ、そのためにオープンな市場が形成され、健全な取引がされているように感じますので、日本でもこの仕組みは参考にして良いと思います。

最後に、NZではどの会社に頼むか?よりも誰に頼むか?が重視されているようです。いろんな書類にエージェントの顔写真がアップされています。やはり、中古住宅売買は非常に「属人的」なものだとあらためて感じました。「属人的」とは、業績や結果の良し悪しが、組織やシステムの力ではなく、個々の社員の力による状態のことを言います。中古住宅売買の仕組みが整えば整うほど、担当者の対応や説明の仕方、どんな会話をするかなど個人の力が重要になるということです。昨年の年末コラムに「結論は人間力と3.3倍」を書きましたが、まさにその内容に間違いは無かったと確認することができました。

起業して6年目にして、ようやく外から自分達をみつめることができました。ここに書ききれなかった事もたくさんありますので、早速、弊社の業務に活かしていこうと思います。
来年はどの国に行こうかな?海外で個人住宅を探している人が居ましたらぜひ私を呼んでください。駆け付けますので(笑)。

中古住宅を買いたい方は「中古住宅を買いたい
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リノベーションをお考えの方は「私達のリノベーション
をご覧ください。

それでは、最後にいつものフレーズを。
未来が楽しみで仕方ありません。
頑張ります!

平成25年12月 山田 篤

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