2020.11.07
住まい選びの注意点①「水害」
昨年の水害は、いまだ記憶に新しいところ。とりわけ台風15号、そして台風19号は各地に多大な風水害をもたらし「セレブの街」とされる武蔵小杉のタワーマンションの被害に注目が集まりました。一般にタワーマンションの電気設備などは地下階にあることが多く、そこに水が流れ込むと電気系統が使えなくなり、各部屋や共用部の電気はもちろん、エレベーターや水道が使用不能に。下水から逆流する、いわゆる「内水氾濫」で、トイレの水も流せないといった事態にも陥りました。復旧には時間もかかり、その間は高層階まで階段で上り下りする必要がありました。
大規模地震に備え、地震の揺れを受け流す「免震構造」や、揺れを吸収する「制震構造」、「高強度コンクリート」といった対策が施されたタワーマンションは「災害に強い」といったイメージがありましたが、それはあくまで地震に強いということであり、足元の水害には脆弱性があることが浮き彫りとなったわけです。
修繕のコストも莫大なものになった模様。電気系統の設備というものはとりわけ水に弱く、一度浸水した設備をそのまま長期使用できるかどうかは不透明。台風19号で浸水した北陸新幹線8両は電子部品などが水没し廃車を決定。JR西日本所有の水没した2両も廃車となってしまいました。
水没のコストについて、火災保険の「水災補償」で賄えるかどうかは、所有者で構成するマンション管理組合が、どのような保険に加入しているかによるものの、一般的に水災補償は、あくまで火災保険のオプション扱いであり、また補償範囲は保険会社によって異なります。さらに「床上浸水」を保障の基準としていることが多く、今回のように内水氾濫で地下階が被災した場合に適用されるかはケースバイケースでしょう。管理会社の責任を求める声もありました。管理会社というものはあくまで、管理組合がマンション管理業務を委託する先であり、例えば、災害時に定められていた対応に不備があったなどの過失がない限り、責任追及は難しいでしょう。売主であるマンションデベロッパーに対し責任追及する場合でも、設計や工事に明白な不備があることを管理組合が立証できなければ、やはり責任追及は困難です。
つまり災害のコストは、管理組合の「修繕積立金」から捻出することになるしかありませんが、修繕積立金は一般的に、通常の建物や設備の劣化に備えるもので、水害対応などは想定していません。困難な生活を迫られるうえに不測の出費を迫られることになるのです。マンションの「長期修繕計画」にも支障が出るのは必至です。
今後の対策として一部のタワーマンションでは、地下階にある電気関係設備を上階に移動できないか検討中です。それでも、上階に一定のスペースが確保できないなど、そもそも移動が不可能なケースもあるはず。電気設備の周りに止水版を設置するなどの予防策を検討しているところもありますが、地下にある以上その効果は万全とは言えません。
しかしこうした事態は、何もタワーマンションに限ったことではありません。一般的なマンションでも一戸建てでも、地下を掘って居室や電気設備を設置しているケースも多く、浸水すれば同様の、あるいはそれ以上の被害にあう可能性も。止水版や土嚢などの対策にも一定の限界があります。
東京圏をはじめとした都市部における雨水処理の想定は、1時間あたり50~60ミリ程度。それ以上の降水が長時間にわたれば、あらゆる建物の地下部分は浸水の恐れがあります。建物についている排水ポンプにも限界があるうえ、そもそも停電が起こればポンプも作動しません。
こうしたことを踏まえ、これからマンションなど不動産を買うのに、あるいは持ち家でなくとも住まいを選ぶ際、どのようなことに留意したらよいか。
まずハザードマップの確認は必須。多くの自治体がホームページで公表しています。万全ではないものの、一連の災害で水害地域とハザードマップの水害想定はおおむね一致していました。市区町村役場に赴くと、予測ではなく水害の「実績」を教えてくれることも。世田谷・杉並区といった内陸部の比較的標高の高いところでも水害の可能性は大いにあります。排水処理能力が許容量を超えると、周辺と比べて相対的に低いところに水が集まるためです。
その土地の基礎的な条件確認も怠れません。国土地理院地図を見ると、戦前にまでさかのぼって空中写真・衛星画像が確認でき、以前にどのような土地に使われていたのかを確認できます。かつて川だったところや沼・湿地帯であったところは浸水可能性が高いでしょう。被災した武蔵小杉駅周辺に限らず多摩川沿いは、そもそも大きく蛇行していた河川を直線に付け替えた経緯があり、かつては川だった「旧河道」や、砂や泥が堆積してできた「氾濫平野」といった性質の土地柄が多かったのです。国土地理院地図―ベクトルタイル提供実験―地形分類(自然地形)で確認できます。この作業は、水害可能性はもちろん地震時の揺れやすさも把握できます。注意点としては、この地図は「250メートルメッシュ」であること。大雑把に地勢が把握できるものだと理解しておきましょう。