マンションによくあるリビング隣接の和室を活用、
生活変化に対応する住まいへリノベーション
- 東京都府中市 O様 中古マンションを中規模リノベーション 家族構成:ご夫婦 お子様2人 築年数:21年
新築で入居して21年、お子さんの成長や生活スタイルの変化とともに、暮らしに間取りが合わなくなって来たと感じていたOさん夫妻。ご主人が経営されている珈琲焙煎所『青空豆店』の店舗内装をお手伝いさせていただいたご縁で、ご自宅リノベーションのご相談をいただきました。昔ながらの和室のある間取りを、今と将来の生活の変化を見据えて、フレキシブルに対応できる住まいへリノベーションしました。
気軽なご相談から始まったリノベーション。
『青空豆店』の店舗リノベーションから4年あまり、実はその時に担当したスタッフとの気軽な会話からご自宅のリノベーションは始まったそう。
「前に担当してくれた佐藤さん、よく珈琲豆買いに来てくれて、今も友達みたいな感じなんですよ。店に来てくれた時にちょっと相談して、子どもが大きくなったから、ひと部屋増やしたいんだよねーって。」とOさん。
そこでリフォーム担当岩田とスイッチ、プランのご提案をさせていただきました。“子ども部屋を分割したい”というご希望でしたが、岩田のプランはまったく違うアイデアでした。注目したのはうまく機能していなかった和室の存在。リビング隣接の和室を無くすことで、ワークスペースとロフト付き子ども部屋をつくり、リビングも広く快適にできるプランです。
ご要望のその先を考えたプラン設計が大切です。
「実は他社にも同じ要望でプラン出してもらって。でも出てきたプランは子ども部屋の分割バリエーション止まり、必要ない用途のスペース提案もあって、余計にお金がかかるような内容だったり…。岩田さんプランの方が全然よかった。考え方自体が違ったよね。」とOさん。
「子ども部屋の分割は、将来の用途が難しくなり、お住いの資産価値のプラス面がなくおすすめできませんでした。“リビングを快適にしたい”も叶えつつ、独立した部屋をつくった方がいいと思いました。」と岩田。今だけでなく、お子さんの独立や転居などで売却を考える場合など、ずっと先の先まで考えてのご提案です。
「工事中、引っ越ししなくて済んだのも大きかった。」とOさん。ご家族はそれぞれのご実家で暮らし、物はそのまま工事しない部屋に入れておくことで、仮住まい費用が別途発生しませんでした。お金の掛け方のメリハリが大切です。
マンションによくあるリビング隣接の和室の
有効活用リノベーションを考えます。
よくいただくご相談に「和室をどうにかしたい」というものがあります。近年はマンションの間取りも変わってきていますが、少し前までは3LDKというと、洋室2つに和室1つという組み合わせがお決まりでした。生活スタイルも変化し、和室の使い道に困る方が増えているようです。今回は、
❶子ども2人にそれぞれ部屋を。
❷リモートワークする場所をつくる。
❸リビングを広く快適に。
❹奥様の趣味のものづくりをする場所をつくる。
を叶えるリノベーションを考えました。
和室を無くして、壁をつくって隔てた左側にリビングと一体化したワークスペース、右側にロフト付き子ども部屋をつくりました。(もう1人の子ども部屋はもとからの部屋を一人使いに。)フローリングを全て共通にすることで、視覚的にもリビングが広がり、掃き出し窓からの光も入ってグッと快適な空間になりました。
スペースの用途も気分も変わるひと工夫、可動式のワークデスクのご提案。
ワークスペースは奥に長いスペースですが、掃き出し窓があることで、狭さや圧迫感を感じません。Oさん邸では、さらにフレキシブルなスペース活用のご提案で、オープンラック付きの可動式ワークデスクを造作しました。下の写真は、デスク位置を切り替えた様子です。集中したい作業の時は壁に向かって、光が優しい季節には窓に向かって座ると気持ち良さそうです。デスク下のキャビネットのレイアウトの仕方で、一人仕様にしたり、二人並び仕様にしたり、用途や気分に合わせて、いろいろ楽しめそうです。
Pick Up
工具いらずで組み替え可能な
可動式デスクを造作しました。
可動式デスクの仕組みがどうなっているかというと…
「オープンラック下の溝に差し込むだけ」という簡単な構造です。しかし造りは精密、計算されたピッタリのサイズでつくられていて、ネジ止めなどの固定がなくても、デスクがガタつくことがありません。大工さんの高い技術によって実現しています。
差し込み部分のフリーの場所は、書類などの収納にも便利。シンプルな美しさと、無駄のない機能性に優れています。写真では棚のファイルで隠れて見えませんが、デスクの高さの壁にコンセントも設置されています。細かな使い勝手のことも忘れません。
もと和室の半分、ワークスペース横はロフト付き子ども部屋に。
もと和室部分は、隣にあるユニットバス(UB)を少し小さいものに変更して、スペースを広げました。ワークスペース・子ども部屋・UB、それぞれの空間の使い勝手をイメージし、ご家族の暮らしに合うように考えられた設計です。「お風呂が20cm狭くなったんですが、子どもが大きくなって一緒に入ることもないので、利用時間を考えても居住空間が増えてよかったです。」と奥様。ロフトの高さに室内窓を設置したことで、明るくなり閉塞感も感じません。窓下の壁はマグネットウォールになっていて、スッキリ掲示が叶います。入口の本棚を設置した凹み部分は、和室の床の間だった部分、使える形はそのまま生かしています。
天井をギリギリまで高く、
躯体コンクリートをデザインの一部に。
天井照明のコンクリート部分は、躯体の地をそのまま生かしています。マンションの構造上、ここは動かせない部分だったため、周囲の天井はギリギリまで上げ、ここはあえてデザインの一部として残しています。照明はレール仕様に、のちのレイアウト変更にも対応できて便利です。
この部屋は、将来的に“こもれる趣味部屋”にしたいと夫婦で狙っているそう。「自分の作業場所が決まっていなかったので、ワークスペースが出来て嬉しいです。このオープンスペースも快適でいいけれど、“隠せる場所”があるのもいいんですよね。」と奥様。扉を閉めてしまえば中は見えないので、のちのちはウォークインクローゼットにするのもいいですね。
Pick Up
実はこれガラスじゃありません。
無垢材+ツインカーボでつくる室内窓。
ワークスペースと子ども部屋を隔てる壁に設置した室内窓は、無垢材+ツインカーボの大工さんによる造作です。この窓は横長の特殊な形状、ガラスだと特注になってしまいます。そこで採用したのが優秀な機能素材“ツインカーボ”です。ポリカーボネートを特殊技術で一体成形した中空構造シートで、耐久性・断熱性にとても優れています。軽く加工しやすいため、ガラスより安全で安価に設置できます。
「高い位置ですが、軽いので開け閉めが楽です。漏れる明かりで、子どもの様子もわかっていいんですよ。見た目全然安っぽくないのに、すごく安くできてよかったです。」と奥様。
家具はほぼ既存のまま。ポイントを押さえたデザイン設計でリビングを一新。
Oさんは美しいものがお好きで、家具や照明機器などこだわりを持って集めていらっしゃいました。リビングの家具類は、ソファ以外全てお持ちだったもの。「リビングが広くなって、念願の大きなソファが買えました。一番最初に購入しちゃったんです。」と嬉しそうな奥様です。空間デザインのポイントは、壁掛けTVの独立壁と対面キッチンのグリーンの壁、それとブラックチェリーの床。お持ちだった美しい家具類が深い色で繋がり、ポイントカラーが効いた北欧ヴィンテージなリビングができました。
見せないで魅せるを叶える
アーチ型窓の対面キッチン。
ひときわ目を引くキッチンのアーチ型の窓。“アーチ型”は奥様のご希望からできたもの。「リビングの見た目を維持するには、キッチンは見えすぎると大変だなっていうのがあって、対面キッチンには程よく隠す壁をつくりたかったんです。でも可愛さも欲しくて…」と奥様。「大きいRは技術的に難しくなりますが、コーナーRでは中途半端なので、設計でちょうどいいRの形を検討して大工さんに現場で造作してもらいました。」と岩田。こだわった甲斐ありですね。
キッチンはリクシルのものに造作を加えて、無垢材のカウンターや棚をつけました。キッチンの取手はオプションでシルバーからブラックに変更。これはご主人が費用が増してもこだわりたかったというポイントです。お持ちだったキッチン周りの家電との統一感が出て美しいですね。
壁掛けTVはオリジナル壁を造作、配線も隠せてスッキリです。
TV側の壁は、マンションの規約上ビスを打てない壁だったため、独立壁を造作しました。材料はしあわせな家のストックにちょうどいい端材があったのを利用してコスト削減、大工さんにオリジナルで造作してもらいました。配線は壁後ろにきれいに隠せて見た目もスッキリ、デザインのポイントにもなりました。壁の下の方には小さな穴が開けてあり、TVボードのBlu-rayレコーダーの配線も隠しています。
リビングの扉は、無垢材+モダンガラス+ペイントでヴィンテージ風に。
OさんはDIYがお好きで、キッチンのグリーンの壁、建具類取手のヴィンテージ調塗装、椅子までペイントされました。プロ級の仕上がりです。
「現場でペンキ屋さんに塗り方とか教えてもらったんで、敷居が下がった感じ。グリーンの塗料はベンジャミンムーアのショールームに行って選びました。岩田さんと一緒にね。」とOさん。リビングの扉は無垢材の枠にガラスや取手をカスタマイズできるプレイリーホームズのもの。色も自由に塗装できるので、他の建具と合わせつつ雰囲気のあるヴィンテージ風に仕上げました。
Pick Up
無垢材フローリング禁止のマンションでも、
無垢材挽き板で素足も心地よく。
「床はひとつランクアップして正解。足触りが全然違いますね、素足で過ごすことが増えました。」とOさん。
選んだのは無垢材フローリング禁止のマンションでもOKな、無垢材挽き板化粧フローリングです。下地には防音フロアを入れました。化粧板フローリングは無垢材の厚みがとても薄いものが多いのですが、この挽き板の無垢材は厚さ1.5㎜もあります。天然木の質感がより感じられ、足触りもやわらかです。床暖房にも対応しているので、耐久性に優れ、隙や割れの心配もありません。表面はピュアな天然木のブラックチェリーなので、使い込むほどに深みが増す飴色の艶も楽しめます。
女子3人並んで使えて嬉しい、
横長ミラーとカウンターの造作洗面台。
Oさんご家族は娘さんがお2人、朝の支度時間、女子3人で並んで使える広さが嬉しいそう。ミラーもカウンターも横長なので、ゆったり使えます。ミラーはリビングの壁掛けTVの造作壁と同じ板材を使って造作、下のタイルはOさん夫妻によるDIYです。「DIYするには割と難しいタイルを選んじゃったみたいなんですが、なんかいい感じにできて、すごく満足です。」と奥様。
薬入れとして使っているという白い缶は、ご主人が経営されている『青空豆店』の珈琲保存容器。洗面スペースの雰囲気に合っていて可愛いですね。取材日もお店は営業中、お話を伺いにお店にもお邪魔させていただきました。
こだわり詰まった自家焙煎珈琲豆の専門店『青空豆店』へ。
ご自宅から車で30分ほど、ご主人のお店に伺いました。Oさんがサラリーマンをやめて『青空豆店』を始めたのは6年ほど前。「趣味のキャンプでいつもより早く起きて、空の色が漆黒から乳白色へ、そして青空へと変わっていく、そんな自然の移り変わりを見ながら飲むコーヒーは格別でした。その美味しさを多くの方と共有したくて『青空豆店』を始めました。」とOさん。ご縁あって、店舗内装のお手伝いをさせていただきました。当時のお話を伺っていると、設計は珈琲焙煎最優先、珈琲愛が溢れています。
間口はあえて狭く、珈琲焙煎に特化した店舗設計。
「接客スペースは最小限にして、できるだけ焙煎スペースを広くしたかったんです。直火焙煎機を入れたくて、ダクトを特注でつくってもらったり、カウンターも入るサイズがなかったので造作です。」とOさん。フレンチローストなどの深煎りは、豆にしっかりと火が通る直火焙煎機でないと本来の美味しさは出ないそう。焙煎機で珈琲豆と向き合う姿は真剣です。こだわり抜いた珈琲豆が並ぶ壁一面のオープンラックと接客のカウンターは、無垢材を珈琲に似合うヴィンテージ風に塗装しました。
漆喰壁がうっすらと珈琲色になって、
いい味わいに育っています。
オープンラックの壁は、全面漆喰。表面の自然な塗り跡が、うっすらと珈琲色になって浮き立ち、いい味わいが出ています。ヴィンテージ風の棚と馴染んで、ますます珈琲豆の並ぶ風景に似合いますね。
取材中にもお客様がご来店、Oさんと珈琲話に花が咲きます。焙煎所は好みの焙煎の豆を購入できるのが嬉しいところ、お客様の好みをより細かく聞きとりながら、美味しい淹れ方まで伝授されていました。
ご自宅の家具やリノベーションにも、珈琲豆へのこだわりにも、Oさんの美学が光っていました。