受け継いだものを生かす道を探る
賃貸古民家リノベーション
本郷菊坂ハウス Part2

賃貸
東京都文京区 中古戸建を大規模リノベーション
築年数:60年

他にもたくさん!「こだわりのリノベ ポイント」

良質な古建具を扱う専門店で
空間に調和する建具を調達しています。

1 階の洗面スペースの引き戸は、古建具専門店で見つけたもの。古民家の一部を再利用する場合、新しく加える建具も年代や雰囲気の合うものを取り入れると、調和のとれた空間をつくることが出来ます。
鏡は、既存の戸の一部を再利用して造作。戸としては壊れて使えなくても、味わいある取手と鍵の部分が鏡の枠に生まれ変わりました。
照明はコストも考えて、シンプルな陶器のレセップを設置。入居者の方が好きな電球に簡単に取り替えられます。

住んでいた貸主さまの思い出も大切に。

1階のお部屋にもともとあった造り付けの書斎棚、状態が良くデザインもいいので、そのまま残しました。
ここは、受け継いだ娘さんたちも子供時代を過ごされた家。「全部壊してしまうのではなく、思い出のある建具なんかが残せたらいいな…」というご希望がありました。残された書斎棚を見てとても喜んでくださり、そこかしこに再利用された建具を見つけては、「あそこの扉だったね」と懐かしく思い出されているようでした。
「古民家の味わいを好む方は、大切に使われていた家具や建具のストーリーにも共感を持ってくださいます。」と賃貸管理担当の佐藤の話。
住んでいた人にとっても、これから住む人にとっても喜ばれるリノベーションでありたいですね。

横のラインの美しさにこだわった外観デザイン。

共用エントランスから入って正面に見える外観は、アルミサッシの並びがつくる横のラインが印象的です。今は防犯対策として窓にシャッターをつけるのが一般的ですが、ここはあえて雨戸を設置しています。窓のラインに雨戸の戸袋も加わることで、美しいラインが完成しています。
「この窓はカーテンではなくブラインドを付けて欲しかったので、賃貸物件ですがブラインドも設置してしまいました。」とデザイナー岩田。
ブラインドの横ラインも揃って、デザインがより引き立ちました。

賃貸でも床は無垢材のフローリングに。

賃貸経営を考える時、投資コストは出来る限り抑えたいものです。どこもかしこもいい素材ばかり使えません。今回のリノベーションプランも、コストを抑えるところはしっかり抑えています。
しかし床は大きな面積を占めるもの、全体の雰囲気に大きく影響します。古建具との調和を考えると、やはり無垢材は外せません。
「賃貸だから」と判断を誤まってしまうと、建物の価値を落とすことにも繋がります。予算の使い所をしっかりコントロールすることが大切です。

建具のサイズに合わせて枠を決める。

左はトイレの扉、右は部屋の扉です。この二つの扉も、もとの家で別々の場所に使われていたものを再利用しました。扉のサイズに合わせて入り口を設計し、大工さんに細かな微調整をお願いします。トイレの扉の取手は壊れてしまっていたので、古建具にも馴染むものを探して新しく取り付けました。
手間のかかる作業ですが、大工さんは「またか!」と言いながらも、快くピッタリに仕上げてくれます。古いものを生かすには手間がかかりますが、それだけの意味があるように思います。

Pick Up

竹でつくった敷居。

この味わいある格子の障子戸は、デザイナーの岩田が近隣の「たいとう歴史都市研究会※」の方から譲り受けてストックしていたもの。畳タイルのある1階の部屋にぴったりです。
「小さなこだわりですが、この部屋の敷居は竹の敷居スベリ。樹脂の敷居スベリでも滑り具合は変わらないのですが、自然素材の方がしっくりくるので。」とデザイナー岩田。
小さなこだわりの積み重ねが、全体の完成度を高めます。

※「たいとう歴史都市研究会」は歴史ある古き良き建物の保全から活用までを行っているNPO法人。建物を大事にする心が自然とつながり、しあわせな家の住まいづくりに歴史ある建具が引き継がれています。

機能性に優れた建材を使った
隠れたロフト。

四角い箱の洗面スペースの上は、実は階段上まで含めた広さのロフトになっています。天井が床にもなっていて、上にあがることができるんです。
この天井は、Jパネルという建材を使っています。Jパネルのいいところは、36mmの厚さで強度が保たれるということ。通常の床組では100mmは超えてしまいます。特に厚みを出したくない場所には、もってこいの建材です。
Jパネルは北側の部屋のロフト床にも使われていて、その特性が活かされています。天然の木材が原料なので、アンティーク調に仕上がるワックスで色付けすれば、古い木材とも違和感なく組み合わせられます。

天井のない部屋には、
シーリングファンが役立ちます。

デザイン的にもいい存在感のシーリングファンですが、設置の意図は見た目だけではありません。
屋根裏構造をむき出しにすることのデメリットとして、断熱効果の低下があります。屋根から伝わる熱が上部に溜まってしまうのです。
そこで役立つのがシーリングファン。上部の空気を動かして、部屋全体に熱がこもるのを防ぎます。照明付きなので、シーリングライトの役割も果たしています。

もとの家の一部でつくった瓦のアプローチと和の玄関。

北側のロフト部屋には、専用アプローチと広い玄関があります。玄関は和の趣ある佇まい、上部の欄間と古建具専門店で見つけてきた格子戸が、外の光を十分に取り込んでくれるので、面積以上に広く感じます。吊下げ灯は、もとの家で使われていたものをそのまま再利用しました。
専用アプローチは、庭師さんがもとの家の瓦や敷石を使ってつくってくれました。通り道には大きな柿の木もあり、管理はオーナーさんですが自由に食べられるそう。
都心いるのを忘れてしまいそうな空間は、大きな付加価値を生んでいます。

古民家の趣ある部分を取り入れた階段スペース。

階段横に不思議な飾り棚のような部分があります。ここはもとの家では小さい納戸があった場所。どんな風に使われていたかは不明ですが、上部に磨りガラスの入った木製の引違い窓があり、趣がある部分なので、そのままの形で残しました。外には庇(ひさし)も付いているので、雨も心配ありません。
この部分があるおかげで、ちょっと狭めの階段も暗くならず、圧迫感も感じません。目の前がチッキンなので、空気の入れ替えにも役立ちそう。住む人のセンスでどんな風に使われてゆくのか、楽しみな部分です。
階段の手摺りは既存の部材の再利用。大工さんの手作業で削った柔らかい丸みが手に優しく、使い込むほどに艶が出て味わいが増してゆきそうです。

昔ながらの掃き出し小窓を生かす。

古民家ではよく見かける床位置の小窓。ホコリを掃き出す用途に使われていたらしいです。ここはちょうど専用庭に面する位置ということもあり、そのまま残すことにしました。
小窓は古いアルミサッシ、見栄えをよくするために目隠し方法を探っていたところ、ちょうどいいサイズの古建具を見つけました。外の光も透過する格子カバーは機能的にも見た目的にもピッタリです。磁石をつけて簡単に着脱できるようにしました。

唯一もとの仕上げを残す場所。

ロフト部屋の洗面スペースは、唯一もとの家の仕上げをそのまま残した場所です。深い色になった天井板と漆喰の壁に、長い年月を感じます(写真右上)。
レトロな雰囲気に合うように、ここの洗面ボウルは四角く、タオルハンガーはシンプルに。霞のガラス窓から入る外光を残すように縦長にデザインされた鏡は、建具の再利用で造作したもの。照明は雰囲気のあるブラケットライトを設置。新しいものと古いものがうまく混ざり合いました。
この建物は現在60歳。これからまた年月を重ねてゆくのが楽しみですね。

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